週刊ラスベガスニュース バックナンバー   2011年 04月 06日号
マフィアの世界をリアルに再現した MOB experience
 3月30日、トロピカーナホテル内に、マフィアの世界をリアルに再現した "MOB experience" が、長い準備期間と仮オープンを経て正式にオープンした。
 mob とはもちろん暴力団のこと。mob も Mafia も似たような意味で使われることが多いが、マフィアにはイタリアのシチリア島の組織という固有名詞的なニュアンスがあるのに対して、mob には地域的な要素は特に含まれていない。
 また、「暴力団」 と表記すると、どうしても日本独自のその種の団体をイメージしてしまいがちなのと、実際にこの MOB experience で取り上げられている組織はほとんどがイタリア系なので、この記事内では 「暴力団」 でも 「モブ」 でもなく、「マフィア」 と表記することとした。
 ちなみに gang (集団ではなく団員ひとりなら gangster) は、アメリカの一般的な感覚としては単なる不良や暴徒などを指すことが多く、日本でいうところのチンピラ集団や非行少年グループに近い。もちろんマフィアのような筋金入りの集団をギャングと呼ぶことがまったくないわけではない。
 なお新聞やテレビなどのきちんとしたメディアが暴力組織やそれに関わる犯罪などを表現する際は、organized crime を使うのが一般的だ。

 なにやらこわい言葉ばかりを並べてしまったが、とにかくこの MOB experience はその種の集団をテーマにした施設であることはまちがいない。
 だからといって、マフィア関連のグッズや写真などがひっそりと展示されただけの簡素な博物館のようなものを想像したら大まちがいだ。この施設は、日ごろ辛口批評の地元メディアも絶賛するほどのかなり大掛かりなアトラクションで、多くの人が想像以上の規模や完成度に驚いている。

 館内を大きく分けると、展示の前半がインターラクティブな体験型のアトラクション、後半が博物館的な展示、そして最後があっと驚く劇的なシーンに自分も巻き込まれてエンディングというなかなか手の込んだ演出だ。
 どのセクションもマフィア好き (そのような趣味が存在するのかどうか知らないが) には興味深いものになっているが、前半のアトラクションにおいてそれなりの英会話力を必要とするのが少々つらいところ。
 ちなみにそこでは、禁酒法時代の酒の密造所や麻薬倉庫などに見立てた舞台セットの中をコース順に沿って進むようになっており、ところどころでマフィアに扮した役者 (映像などではなく生身の人間) が出没し、封筒に入ったドル紙幣の運び役をやらされたり、殺し方の相談を受けたり、あれこれと英語でのやりとりが求められる。したがって英語が苦手な場合は、英語を得意とする友人などと一緒に行ったほうがよいだろう。

 後半の展示部分は、ガンビーノ一家、アル・カポネ、ベンジャミン・シーゲル、フランク・ローゼンタールなど、禁酒法時代にニューヨークやシカゴで暗躍したマフィアや、禁酒法時代が終わり収入源を密造酒からラスベガスのカジノに切り替えたマフィアの生きざまなどを、写真やグッズ、さらには当時の映像を使って細かく紹介。
 たとえば、銃弾に倒れたシーゲルのロサンゼルス警察発行の死亡証明書 (写真右上) や、スターダストホテルの影の大ボスとされたローゼンタールが自分のキャデラックに乗った瞬間に爆破された事件当日のテレビニュース映像などは、映画でも広く知られるシーンなだけにインパクトがあり印象的だ。
 また、当時のハリウッド・スターとマフィアの親密な関係や、シナトラが怪しい人物と一緒に写っている写真など、いろいろ考えさせられる展示も少なくない。
 そして前述のとおり最後のシーンは凄まじく、見学客、つまりあなた自身が二人のマフィアによって機関銃で撃ち殺される。詳しく説明すると楽しみがなくなるので細かいことは省くが、あまりにもリアルな3D映像と演出に、この展示の技術的レベルの高さを改めて思い知らされるはずだ。

 ということで、かなりまともなアトラクションではあるが、マフィアに興味がない者にとっては面白くも何ともないことはいうまでもない。
 ゆえに、これを読んで現場に足を運ぼうと考えている者はかなりマフィアに造詣が深いはずで、仮にすでに鑑賞済みであったとしても、改めて映画 「カジノ」 (1995年、ユニバーサル映画) を観て、当時のベガスで起こっていたことを再確認してから行ったほうがよいだろう。実話に基づくその映画は、MOB experience を楽しむためには必須の情報源であり、当時の組織や人間関係を詳しく知ってから行ったほうが感動が 2倍にも3倍にもなるからだ。
 そしてできれば、「バグジー」 (1991年、トライスターピクチャーズ)、さらにラスベガスとは直接関係ないが、「ゴッドファーザー」 (1972年、パラマウント映画) などもマフィア関連作品として観ておきたい。

 映画はあくまでもエンターテーメント。しかしそこで知った史実と、この MOB experience における展示物や情報との融合は、もはやこの街の歴史を極める上での学問でもあり、ここは単なるアトラクションというレベルを大きく超えた学術施設といってよいのではないか。
 ちなみにローゼンタールの車が爆破された事件は今からわずか30年ほど前の出来事であり、運良くその事件から生還できた彼が死去したのはたった 2年半前の2008年10月のこと。そして全盛時代のローゼンタールの弁護士として当局を相手に戦っていたオスカー・グッドマンは、なんと現在のラスベガス市長で、彼は映画 「カジノ」 内でも、ロバートデニーロ演じるローゼンタールの弁護士として実名で登場してしまうほどの異色の政治家だ。

 今でこそマフィアの手から離れ、現在ほとんどのカジノホテルは上場企業によって運営されているが、マフィアが取り仕切っていた時代の生き証人ともいえる人物や史実はまだまだこの街にたくさん存在している。
 この MOB experience は、そんなこの街の特殊事情を思い起こさせてくれる非常に意義深い施設といってよいのではないか。
 場所はトロピカーナホテルの中庭の奥にあるパビリオン。開館時間は毎日午前10時から午後10時まで。入館料は$39.95。見学に要する時間は、興味の度合いにもよるが、さっさと観て回って約1時間、映画などもすべて観てゆっくり進めば2時間以上。
 ギフトショップも併設されており、マフィアファンやベガスファンにとっては興味深い絵や写真なども販売されている。ギフトショップまでならば入場チケット無しでもアクセス可能。


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