週刊ラスベガスニュース バックナンバー   2001年07月04日号
合法オンラインカジノ、難題山積で実現は不透明
 世界最大のギャンブル都市ラスベガスを抱えるネバダ州は 6月14日、インターネットによるオンラインカジノ (以下 "ネットカジノ" と呼ぶこととする) を合法化する前提で今後法整備を進めていくと発表した。
 実現までには解決しなければならない難題が山積しており、今すぐに合法ネットカジノが次々と誕生するというわけではないが、今回のネバダ州の動きは世界中のカジノ産業を大きく変えてしまう可能性も秘めており、さまざまな方面に波紋を投げかけている。今週はこのネットカジノ合法化の動きについて考察してみたい。

 すでにネットカジノは世界中に多数存在しており、その数は 1000 とも 2000 とも言われている。違法と承知で運営されているサイトもあれば、合法と言い切るサイトもある。
 しかしそれらのサイトが違法かどうかの議論は非常にむずかしい。なぜなら、多くの場合、違法とはならない国 (主にカリブ海諸国) にサーバーなどを置いているだけでなく、インターネットという新しい通信手段を想定した法律がどこの国でも十分に整備されていないからだ。
 また、"カジノの開帳" (供給) と "カジノでのプレー" (需要) が別々に規制されていたりすることもこの問題をむずかしくしている。たとえば、供給も合法の国にサーバーを置き、需要だけならば違法ではない国の者がネットカジノを利用した場合、全体として合法となってしまいかねないというわけだ。
 供給側であるネットカジノ運営者の実質的な国籍と、サーバーが置かれている国が違っていたり、同様に、需要側である利用者の実質的な国籍と回線接続ポイントの国が違うような場合の法の盲点も問題を複雑にしている。

 いずれにせよ現時点では、アメリカや日本を始めとする主要先進国の多くがネットカジノでのプレーを禁止しているか、もしくは少なくともネットカジノの開帳を禁じており、仮に禁じていないとしてもそれを合法とする法律は存在していない。
 さらに見落としてはならない重要なことは、大多数の既存ネットカジノ運営者の実質的な国籍がカリブ海諸国ではなく主要先進国であるという現実だ。つまり法の網をくぐる目的で意図的にサーバーを他国に置いていることがうかがえる。
 これらの現実をトータル的に考えると、既存ネットカジノを合法と解釈するには非常に無理があり、違法と解釈されている現在の一般的認識は極めて妥当といってよいだろう。

 そのようなネットカジノの存在に対して、ネバダ州もラスベガスのカジノホテルもこれまで一貫して反対の立場を取ってきた。当然だろう。違法ネットカジノを野放しにしてしまうとギャンブラーがラスベガスへ足を運ばなくなり、カジノホテルの経営が圧迫されるばかりか税収も減ってしまうからだ。しかしここへ来て一転して州もカジノホテルもネットカジノ容認派に回った。なぜか。

 理由は2つあるといわれている。一つは国境を超えて存在する違法ネットカジノを取り締まることが物理的にも法的にも極めて困難であるという現実に気づき始めたこと。
 2つ目は勝算、つまり合法化した場合、ブランド力を持つ大手カジノホテルはこれまで暗躍してきた違法ネットカジノを駆逐でき、結果的に業績を伸ばし州の税収にもつながるとの判断だ。

 どこの国のどんな時代においても人間の欲望に支えられた需要は決してなくならず、また、"やってはならない" と規制されればされるほど違法な地下経済が形成されるのは世の常だ。麻薬や売春を見れば明らかなように、ギャンブルも法律で封じ込むことは極めて困難だろう。ましてやインターネットという特殊な道具を使われたのでは取り締まりはほとんど不可能に近い。
 そんな野放し状態の地下経済を拡大させても公益にならず、一方、きちんと管理し合法化すれば税収も期待できるというわけで、それに気づいたネバダ州の今回の決定は現実を直視した賢明な判断といってよいだろう。

 今回の合法化の動きに対して、ラスベガスを代表する大型ホテル・ベネシアンの会長は真っ先に賛成に回った。MGM、ニューヨークニューヨーク、ベラージオ、ミラージ、トレジャーアイランドなどを所有する MGM Mirage 社も歓迎の意を表明している。ブランド力を生かした合法ネットカジノを開設すれば、違法ネットカジノから客を奪える自信があるのだろう。業界筋からの情報によると、すでに各カジノホテルはネットカジノ解禁を視野に入れた行動に出ており、大手ソフトウェア会社などと接触しているという。MGM Mirage 社は、カジノゲームソフトなどで提携したことがあるマイクロソフト社と接触しているのではないかとの噂まで流れている。
 一方、これまで自らの運営を合法とし、また合法化を唱えてきたネットカジノ運営者の心境は複雑だろう。今後は違法という肩身の狭い思いをしなくて済む代わりに大手企業との競争の荒波にさらされる。実際の声は地下から地上に聞こえて来てはいないが、戦々恐々としているに違いない。

 もちろんネバダ州と大手カジノホテルも前途がバラ色というわけではない。今回の合法化プランで州外からのアクセスも解禁となった場合、誰もが心配するのはラスベガスへ足を運ぶ客の減少だろう。しかしこれに関してホテル側は、「ラスベガスはカジノ以外の部分においても魅力的な街。すでに現時点でもカジノ以外の目的の観光客が多数訪れている」 と強気の姿勢を崩していない。
 また多くのアナリストらも、「自宅でギャンブルができるようになってもラスベガスの魅力は変わらない。海外やアメリカ全土からの客の減少はほとんどないだろう。ただし地理的に近いロサンゼルス地区から陸路でやって来る週末ギャンブラーは大きく落ち込む可能性がある。それでもそれらギャンブラーはカジノホテルが新たに運営するネットカジノに金を落とすことになるので結果的に既存ホテルの業績は落ち込まない」 と分析している。

 ネットカジノ解禁で一番頭を悩ますのは違法ネットカジノ運営者でも既存カジノホテルでもなく、ライセンス料などを決定しなければならないネバダ州政府だという声もある。合法化されたからといって野放しで誰もがカジノを開帳してもよいというわけには行かず、何らかの規制は必要で、それに関しては誰からも異論はないだろう。特にカジノホテルなどは既得権に守られた厳しい新規参入規制を期待しているようだ。
 現在ネバダ州政府は解禁後のネットカジノ運営者に対して年間 25万〜50万ドルのライセンス登録料と、利益に対して 6%の税金を課すことを検討している。しかしこの数字の最終決定までにはさまざまな曲折があるだろうというのが関係者の大方の見方だ。
 まず既存大手カジノホテルはこのライセンス登録料をあまり低く設定してもらいたいとは思っていない。中小企業が簡単に参入できてしまうと競争が激化するからだ。また競争が激化し各ネットカジノ業者の収益が悪化すると税収も減ってしまうため、ネバダ州政府としてもあまり低い水準にはしたくない。

 しかし多くの関係者はそのような思惑通りに事が進まないと分析する。他州や他国との競争が発生するからだ。ネバダ州以外の州や国が安いライセンス料や税率でネットカジノ誘致に乗り出した場合、従来からの違法ネットカジノ業者はもちろんのこと、在ラスベガスの既存カジノホテルすらもネットカジノ部門だけはそれら州や国に移してしまう可能性がある。
 今回のネバダ州の合法化プランでは、「ネットカジノを運営する企業もそのカジノでプレーする客もネバダ州内に限る」 という前提で話を進めているようだが、もし他州や他の国が 「どこの地域からのアクセスも大歓迎」 という法律を制定し誘致に乗り出した場合、すべての業者はそちらに流れ、ネバダ州は指をくわえてそれを見ているしかない。
 そんな現実をいろいろ分析しての結果か、早くも 「ネットカジノの解禁は最終的には国同士の誘致合戦という国家レベルの争いに帰着する」 とする大胆な予測も飛び出している。

 合法化プランにおいて技術的な問題も避けて通れない。ネットカジノへのアクセスをネバダ州内からに限るとするならば (ラスベガスに来ることが出来ない海外の客も取り込みたいホテル側はこの制限に強く反対している)、州外からのアクセスを監視する必要があり、また、未成年者の利用をどのように防ぐかといった技術的な課題なども解禁反対派が鋭く指摘している部分だ。音声照合や指紋照合などによる本人確認技術も具体的に検討され始めているようだが、現時点では特殊な付属機器やプログラムを必要とするそれら技術は大衆における実用レベルに達しておらず、まだまだ解決しなければならない課題は少なくない。

 今回のネバダ州の発表で、世間ではあたかもすぐに合法ネットカジノが誕生するかのような報道が目立っているが、山積された問題のむずかしさを直視する限り、実現はまだまだ先と考えた方がよさそうだ。そもそも今回の決定はあくまでもネバダ州だけの話であり、州境はおろか国境すら存在しないインターネットの世界において、一つの州の規則でこの種の問題をコントロールできるわけもなく、日本からもギャンブルが楽しめるといったグローバルな話に発展すると考えるのは早計だろう。
 また、人間の本能を刺激するギャンブルはどこの国においても巨大な潜在需要があり、社会問題としても経済問題としてもネバダという一つの州が管理運営するにはあまりにも大きく、利害的にも他の州や国がネバダ州の独占を黙認するとは考えにくい。そう考えると今回の解禁プランの行き着くところは実現したとしてもグローバルな規模になる可能性は低く、「ネバダ州内の業者がネバダ州内の客を相手にのみ運営できる」 という程度のものになるだろう。それはすでにいつでもギャンブルができる環境にあるネバダ州民やネバダ州訪問者にとって革命的なことではなく、業界関係者も今回のネバダ州の決定にあまりあたふたすることもないだろう。ただ、これをきっかけに遠い将来 (近い将来かもしれない)、世界各国の合意の元、グローバルな統一ルールでネットカジノが合法化される方向に話が発展した場合、その世界市場をアメリカのカジノ産業が独占してしまう可能性は否定できない。そういう意味では今回のニュースは業界再編成、いや業界大革命の前ぶれなのかもしれない。



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