週刊ラスベガスニュース バックナンバー   2001年06月13日号
David Darkstone、いつかはスーパースターに
 どんなスーパースターも最初はこんな時代があったはず---。今週はそんな気持ちにさせられる若手マジシャン David Darkstone の "舞台裏" を紹介してみたい。

 彼が主役を務めるマジックショー "David Darkstone ILLUSIONS & BEYOND" は 6月1日、ニューフロンティアホテルで始まった。
 6月 12日、事前情報として、会場のキャパシティーが約 100人、開演時間が昼の 12時と 2時、料金が $12.95 と聞いていたので、ラスベガスの常識から大きく逸脱したその内容に興味を持ちながらさっそく現場へ取材に行くと、開演 1時間前だというのにプロデューサーと名乗る若者 Will Roya が快く迎えてくれた。
 彼の説明によると、主役の David Darkstone はマイアミからやって来たばかりの新鋭マジシャンで年齢はまだ 23才、共演のジャグラーも 24才とのことで、二人は明日のスーパースターを夢見て頑張っているという。

 プロデューサー Will との歓談を終え、待つこと約 20分。会場前のチケット売場が開いたので入場券を買う。噂通り $12.95 と激安だが、さらにそこから $3.00 の "地元民割引" があるという。取材なので無料で入場することもできたはずだが、苦労している若者の話を聞かされたからにはそんなことはできない。そもそもチケット売場周辺には十人ほどの客しか見当たらず、全売上の1割に相当すると思われる自分の入場料をタダにしてもらうことなどできるはずもない。

 会場の扉が開いたので先頭を切って中へ入ろうとすると、主役の David らしき人物がなにやら準備作業をしながら 「あと 15分ほど持ってくれ」 という。そこで見た光景はかなり薄暗く、会場というよりも舞台裏のようだったが、どうやらこの会場は舞台裏も舞台表も無いほど小さいことにあとで気付いた。

 しばらくホテル内をふらついたあと再び現場へ戻ると人の数が増えており、そこには 30人ほどの客が開演を持っていた。
 準備も整い入場 OKの合図。指定席制ではないので案内係がそれぞれの客を席まで誘導してくれる。自分の番になりチケットを案内人に差し出し入場しようとすると、なんとその案内人はさっき会ったばかりの Will ではないか。
 彼は、自分が案内人をやっていることが照れくさかったのか、それともチケットなどを買わなくても入れてあげたのに、と言いたかったのか、軽く苦笑いしながら黙っていい席に案内してくれた。

 折りたたみ式の椅子が並べられただけのその会場のキャパシティーは噂通り 100人前後だ。そこに約 30人ほどが着席した状態でいよいよ開演となる。
 空っぽだったはずの大きな箱の中から主役の David Darkstone がステージに華々しく登場する。
 観客の指輪を隠してしまうマジックや日本をテーマにしたマジックなど、ややぎこちなさが残るもののそれなりの演技とトークが 30分ほど続いたあと、彼自身が共演者のジャグラーを紹介しながらひとまずステージ裏へ引っ込む。
 なんと次に登場したジャグラーはあのプロデューサー Will Roya ではないか。(あとになって気付いたが、このショーのポスターに彼の名前はちゃんと出ていた)。一人何役もやらなければならない彼らの苦労を改めて垣間見た感じだが、David 同様 Will の演技にもまだぎこちなさが残っており、ジャグリングの技量としてはディスク5枚を投げ上げるのが限界なのか、それ以上のワザは披露してくれない。
 その後再び David が登場し、瞬時にして人間が入れ替わるイリュージョンなどを披露してくれたのち、正味約 50分で幕となる。

 さて内容やレベルについてだが、キャリアも会場設備も料金もまるで違うランスバートン、シークフリード&ロイ、デイビッドカッパーフィールドら、スーパースターたちと比較してこの David と Will の演技をヘタとか面白くないとか批評しても意味がないだろう。したがってあえて細かいコメントは避けるが、"キャリアや料金に見合った内容" と伝えておきたい。
 そしてなにより、このショーを観る価値や意義はそのぎこちない演技を楽しむことではなく、どんなスーパースターもこのような無名時代があったということを改めて認識しながら、今日の無名役者の前途を応援する温かい心と、苦労を積み重ねてきたスーパースターたちに対する尊敬の念を持つことではないだろうか。
 一流の野球選手が活躍している陰にたくさんの二軍選手がいることや、横綱や大関の下で無数の幕下力士が苦労していることと同じように、スポットライトを浴びるスーパースターの華やかなステージのすぐ隣で、数十人の観客を相手に日夜苦労している役者がいるというラスベガスのタテ社会の現実を目の当たりにすることはある種の勉強になると同時に感動を覚えるはずだ。

 場所はニューフロンティアホテルのスポーツブック脇の簡易シアター。チケットはそのシアターの前で開演直前に販売される。料金は前述の通り $12.95。子供料金はないが 5歳以下は無料 (小さな子供も大歓迎とのこと)。開演は月曜日を除く毎日 12:00pm と 2:00pm。


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