週刊ラスベガスニュース バックナンバー   2010年 09月 08日号
フーバーダムのバイパスブリッジ by 大林組、ついに完成
 日本のゼネコン大手、大林組が2005年から手がけてきたフーバーダムのバイパスブリッジの工事がこのたび完了し、メディア関係者らにそのアーチ橋の美しい雄姿が披露された。(写真: 奥に白く見える部分がフーバーダム、下はコロラド川、クリックで拡大表示)
 なお接続する道路や駐車場など、まだブリッジ本体以外の工事が残っているため、一般車輌に対する開通は11月ごろになる予定。歩行者や自転車などを対象とした祝賀イベント的な開放日は10月中旬に計画されている。
 ちなみにこの橋の正式名称は 「Mike O'Callagham - Pat Tillman Memorial Bridge」。Mike が元ネバダ州知事の名前、Pat がアフガニスタンで戦死した元 アリゾナ・カージナルスのプロフットボール選手の名前。
 もちろんこんな長い名称が一般の呼称として定着するわけもなく、すでに地元メディアなどは 「フーバーダム・パイパスブリッジ」、「コロラドリバーブリッジ」 などと呼んでいるので、一般市民の間での通称もそのあたりで落ち着きそうだ。

 ラスベガスの中心街から車で約50分ほどのフーバーダムは、1931年 (昭和6年) に着工され、当時圧倒的な国力を誇っていたアメリカの土木技術の粋を集 めて4年後に完成した巨大ダムで、経済的にも政治的にも非常に重要な意味を持った歴史的建造物。
 もちろん今でも発電や治水で稼動しており、いわばアメリカを代表する "現役モニュメント" であることからテロリストの標的になりやすいとされ、このダムへアクセスする車輌に対しては爆発物の検問が行われている。
(右上は2007年4月に撮影された航空写真。画面左下に見える4本の支柱が今回のブリッジの橋脚)

 日本からの観光客でここを訪れる者は少ないが、アメリカ人にとっては全米有数の観光スポットとして、ラスベガス訪問者の多くがフーバーダムを訪れており、そのため週末の昼前後の渋滞は慢性化している。その解消は長年の懸案で、特に911同時多発テロ事件以降、検問所が設けられたことから渋滞はさらに悪化し、バイパスの建設は急務となっていた。
 実は、渋滞の原因となっているのは観光客のマイカーやレンタカーだけではない。フーバーダム本体の上部を走る片側一車線ずつの狭い道路は (写真右上)、アリゾナ州とラスベガス以北の地域を結ぶ幹線高速道路そのものであり、低速で走らなければならないこの区間はいわゆるボトルネックで、物流など地域経済の大きな障害となっていた。ちなみに陸路でラスベガスからグランドキャニオンへ行く際もここを通過することになるので、渋滞解消は日本人観光客にとっても無縁ではない。

 そんな地元や観光客の期待を背負って計画されたバイパスブリッジを受注したのは日本の大林組。
 今回現場を案内してくれた同社の高徳さん (写真に向かって左)、下村さん (同右) によると、入札の結果、大林組の高い土木技術が評価され、この工事を受注できたという。
 大林組の技術は、サンフランシスコのゴールデンゲートブリッジの耐震補強工事や、昨年完成したシアトル空港の鉄道 「ライトレール」建設などで米国の業界内でもすでに高く評価されており、今回の受注は決して意外な出来事ではないようだ。
 入札価格は約1億1400万ドル。これは大林が担当した橋の部分だけの建設費用で、設計 (米国企業が担当) や周辺道路の整備などは含まれておらず、プロジェクト全体としての総工費は 2億4000万ドル以上とされている。

 コンクリート・アーチ橋という方式が採用されたのにはさまざまな理由があるらしい。
 橋の形状については、アーチ橋のほか、吊り橋なども検討されたが、風が強いこの渓谷では不向きと考えられた。また、コンクリート橋のほか、鉄製の橋も検討されたという。
 最終的には、鉄筋をコンクリートで覆うRC工法によるアーチ橋が採用されたわけだが、コンクリートは固まる際に、ひび割れの大敵となる高い熱を出すことから、特に猛暑の夏場などはその硬化熱を下げるために液体窒素を混ぜるなど、苦労する部分も少なくなかったのこと。

 それでも設計者がコンクリート橋にこだわったのには大きな理由があった。フーバーダムとの見た目のバランスだ。コンクリートそのものともいえるダムと の調和を重視すると、コンクリート製のアーチ橋が最善の選択肢ということになった。(右はブリッジから撮影したフーバーダム)
 ちなみにコンクリート・アーチ橋としては世界で4番目の規模で、アメリカでは1番とのこと (世界一は中国にある)。
 アーチ支間は323メートル、建設途中でケーブルを張った仮支柱の最高点はコロラド川の水面から312メートルで、これは横浜ランドマークタワーよりも高い。仮支柱が取り除かれた現在の路面の位置も水面から262メートルもある。

 さて開通後に関してだが、有料道路にはならず、またフーバーダムに接しているわけではないので検問もなくなる予定。
 従来のルートでダムを見学しに行く際の道は渋滞が残る可能性があるが、少なくともコロラド川を渡るだけのこの橋の通過車輌は渋滞が完全に解消されるはずで、利用者にとってはいいことばかりだ。(右は橋上の路面の様子で、これから車線などが引かれる)
 ただ、車窓からの景色に関しては期待しないほうがいいかもしれない。水面から262メートルとなると雄大な景色が楽しめそうだが、残念ながら一般の乗用車の座席位置からは下界はまったく見えない。手すりが完全なソリッドのコンクリート製になっており、すき間がまったくないからだ。わき見運転による追突防止を考えると仕方がないといったところか。

 しかしガッカリするのはまだ早い。橋の手前 (ネバダ州側) に駐車場が設けられ、そこに車を置いて徒歩で渡れるようになっている。つまり車道以外に歩道も用意されており、そこからは思う存分景色を楽しめる。
 なおその駐車場が有料になるかどうかは、まだ確定的な情報を得ていない。(右写真内の左側のフェンスが車道と歩道の境界、右側のフェンスが歩道と外界 を区切る手すり)
 歩行者は、橋を半分ほど渡った付近にネバダ州とアリゾナ州の州境を示すプレートが埋め込まれているのでそこで記念撮影をし、はるか下界にあるコロラド川やフーバーダムの景色を楽しむとよいだろう。高所恐怖症の者にとっては壮絶な橋上歩行となるので、それなりの覚悟が必要だ。

 プロジェクトの主体は州政府ではなく国だが、開通後の管理運営は両州に任されることになっている。
 夜間のライトアップなどは現時点では計画されていないようだが、そのための電源は用意されているとのこと。今後両州がこの橋をどのように観光資源として活用していくのかまだわからないが、いずれにせよ、アメリカを代表する建造物フーバーダムの脇に新たな名所が加わり、その建設を日本企業が担当したということは日本人として喜ばしく、また大いに誇っていいのではないか。
 着工から完成まで、大林組では6人の日本人スタッフを現場に送り込み指揮を執ってきたとのこと。サソリやガラガラヘビとも戦ってきたという苦労話もしてくれたそのチームもまもなく解散となる。彼らの活躍や苦労を思い出しながら改めて車を走らせてみたい。



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