週刊ラスベガスニュース バックナンバー   2000年12月20日号
“ラスベガスの音” が消える ?
 パチンコ店にはパチンコ店の音がある。ボウリング場にはボウリング場の音がある。それらの音は 「現場の雰囲気そのもの」 であり欠かすことができない。もちろんカジノにおいても同様なことが言える。

 “ラスベガスの音” と聞いて何を想像するだろうか。多くの人はカジノの音を想像するに違いない。
 では “カジノの音” と聞いて何を想像するか。トランプが配られる音やサイコロが転がる音を想像する者はまずいないだろう。カジノの “音の主” は誰がなんと言おうがスロットマシンをおいて他にあるまい。コインがジャラジャラ出て来る時のあの豪快な金属音だ。
 そのスロットマシンが音を出さなくなったらどうなるか。それは “ラスベガスの音” が消えることを意味するのではないだろうか。

 先週から BALLY'S ホテルにおいて “Coinless-Machine” と呼ばれる新タイプのスロットマシンの導入実験が始まった。このマシン (写真右上) は文字通りコインを吐き出さないことを原則としている。まだ設置されただけで 「完全コインレス」 の状態での稼働が始まったわけではないが、すでに百台を超えるマシンがさまざまな実験の開始を待っている。

・ コインレスマシンの拡大写真 ← クリック

 コインレスマシンはコインで払い出す代わりに金額が記載されたキャッシュアウトチケット (写真左) をプリントアウトする。もちろん技術的には何ら新しいものではなく、事実 7年も前に MGMグランドホテルでコインレスマシンは導入された実績がある。
 しかし MGMでのその導入はものの見事に失敗しすぐに全台が撤去されたという。
 今回の BALLY'S での実験はその MGMの失敗への再挑戦ということになるが、技術的な実験ではなく、あくまでも客の反応やカジノ内の雰囲気といったソフト面での実験になる予定だ。

 コインレスマシンはカジノ側にとって 「いいことずくめ」 だという。コインの回収作業や、その逆のコインの補充作業から解放されるばかりか、残高などの数値の把握も簡単になるからだ。もちろん今までも各マシンの残高は遠隔から把握できていたが、コインという物理的な存在がある限りその枚数とコンピューター上の枚数を一致させる作業が必要で、それは人間の手を必要としていた。
 スロットマシンの間を歩き回っている両替のための従業員や、ハンドペイのスタッフ (コインでは払い出せない高額配当金を紙幣で手渡す従業員) の人員削減も可能になる。さらにコインレスマシンはコインの盗難や紛失といった管理面でも絶大なる恩恵をもたらす。
 そしてなにより、5セントマシンや25セントマシンにおいてはコイン自体が現金そのものであることから、コインレスマシンでは滞留する現金がなくなり経理的キャッシュフローが大幅に改善される。1ドルマシンにおいては専用コインの製造コストが不要になる。
 利益を得るのはカジノ側だけではない。利用者側にもメリットがある。マシンの受け皿に溜まった大量のコインを換金する作業はうれしいものだが、バケツに移したりするのが非常にめんどくさい。また、コインをさわり続けていると金属粉の影響か手がひどく汚れる。さらに換金窓口へ運ぶ際など、重すぎてバケツをひっくり返しそうになったりもする。コインレスマシンではそういった問題とは無縁だ。

 それほどいいことずくめのコインレスマシンがなぜ MGMの失敗以降 7年間も登場しなかったのか。その理由はただ一つ、 “ラスベガスの音” が消えてしまうことへの恐怖だ。事実 MGM が導入した際、その音のしない静まり返ったセクションには人影がなかったという。
 「音がしないスロットマシンはスロットマシンファンを遠ざけるだけではすまない。カジノ全体が死んでしまうことになる。スロットマシンの音はブラックジャックプレーヤーたちにとっても不可欠。」 という考え方がカジノ側を長い間支配してきた。
 そして今でも 「カジノからあの音をなくしてしまうことは、海水浴場から波の音をなくしてしまうことと同じで、ラスベガスの魂を捨てる行為に等しい」 といった保守的な意見が根強い。

 しかし今回あえて BALLY'S がコインレスマシンの導入に道を開こうとしている背景にはそれなりの裏付けがある。じつはローカルカジノと呼ばれる地元民を対象としたカジノ (Texas Station や Fiesta など) ではすでに数ヶ月前から導入され、マイナス効果があまり見られていないという先例を BALLY'S は確認しているからだ。また、ストリップ地区にほど近い最近オープンしたばかりのローカルカジノ Terrible's においては、ほぼ全数のマシンがコインレス機になっているが、特に大きな悪影響が出ていないとのことで、それも BALLY'S にとって追い風となっている。

 こういった傾向に対して、「毎日カジノに足を運ぶような地元民相手のカジノと観光客相手のストリップ地区のカジノでは話が別。ラスベガスの雰囲気を楽しみにやって来る観光客の夢を壊すような BALLY'S の行為はラスベガス全体を滅ぼしかねない。」 と警鐘を鳴らす関係者も少なくない。
 一方、BALLY'S 側やスロットマシンのメーカーである IGT 社側は、「チケットをプリントアウトする際には、従来機がコインを受け皿に吐き出す際の音を合成音で出すようにしているのであまり気にすることはない」 と楽観的だ。ちなみに実際にローカルカジノでその音を聞いた限りでは (BALLY'S ではまだ調整中のため聞くことができない) 本物とはかけ離れた迫力のない音だった。

 今回始める BALLY'S での実験では、カジノ内の雰囲気に合った適正な音量などもテストするとのことだが、メーカー側は最悪の結果 (カジノ内がシラけてしまうこと) を心配しているのか、さらなる改良版として 「払い戻しの際、コインとチケットのどちらかを自由に選択できるようなマシン」 の開発も検討しているという。しかしそれではコインの管理からカジノ側が完全に解放されず、導入のメリットがないような気がしないでもない。
 いずれにせよ、BALLY'S 側は今回の実験でカジノ内がシラけてしまうような悪影響が確認されない限り、2001年末までに IGT社に大量に発注し、同ホテルの大半のマシンをコインレス機に置き換えるという。
 ラスベガス大全の予想としてはストリップ地区でのコインレスマシンの普及は五分五分と見ている。カジノ側が受ける絶大なメリットを考えるとすぐにでも大ブームとなりそうだが、現在の様子を見ているとコインとチケットの併用がしばらく続きそうで、「完全なコインレス」 が実現できない限りカジノにとっての恩恵が少ないからだ。
 それでも長期的に見れば 「コインの現物を動かす」 というこれまでの方式は極めて原始的で、21世紀の社会に残っていける発想とは到底思えず、遅かれ早かれコインレスの時代がやって来ることは間違いないと思われる。
 ちなみに市場は早くもコインレス時代を先読みしているのか、スロットマシン最大手の IGT社の株価はここ数ヶ月で 2倍以上に急騰している。

 参考までに現在ローカルカジノに出回っているコインレスマシン (すべて IGT社製。BALLY'S が今回設置し始めた機種も基本的に同じ) の機能は以下の通り。
 (現時点ではすべての機種においてコインも併用できるようになっており、「完全なコインレス機」 にはなっていない。これではカジノ側はコイン管理からまだ完全に解放されておらず、十分なメリットを受けていないように見受けられる。)

 マシン内の残高の払い戻しは原則としてチケットのプリントアウトによって行う
 ただし残高が低額の場合($20以下の場合など)は従来と同様、コインの現物で
  で払い出す。 (「低額」 の基準はマシンによって異なる)
 チケットを再度マシンに挿入することによってプレーを再開することが可能。
  同じカジノ内であれば他のマシンに挿入して使用することも可能。
 チケットを現金化したい場合はキャッシャーにて行う。
 チケットの有効期限は60日。
 マシンは従来通り現金紙幣およびコインでのプレーも受け付ける。


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