週刊ラスベガスニュース バックナンバー   2000年10月04日号
「ラスベガス恋物語」 がラスベガスを救う?
 10月からノースウェスト航空のラスベガス-東京 ノンストップ便が減便となった。日曜日のフライトがなくなり週3往復から2往復 (月曜日、木曜日) に減った。
 成田空港の限られた発着枠の有効利用、ラスベガス国際空港の入国審査問題(後述) などさまざまな理由が噂されているが、ここは素直に需要が減ったと考えるのが妥当だろう。

 昭和39年に海外旅行が自由化されて以来、ラスベガスへの日本からの観光客数は短期的な多少の増減はあったものの、過去35年間着実に増加してきた。それだけに今回の減便のニュースは地元日系観光業界にとってはかつて経験したことがない憂慮すべき事態で、業界全体が大きな転換期にさしかかったことを意味している。
 ちなみに世界各国からの訪問者を含めたラスベガス全体の観光客総数は減っていないという。今週は、日本人観光客の減少問題について 「実態の把握」、「原因の究明」、「対策」という3つの角度から分析してみたい。

[ 実態の把握 ]

 まず実態の把握だが、多く地元関係者はすでに体感的に日本人観光客の減少傾向を感じ取っている。しかしその実態、つまり年間訪問者数といった具体的な数字となるとだれも把握していない。観光局などが発表する 50万人 とか 100万人 といった数字を鵜呑みにしている者もいるようだが、それはナンセンスというものだ。

 そもそも 「日本人観光客」 および 「ラスベガス訪問」 の定義はなんなのか。誰も知らないし知ろうとしていない。
 サンフランシスコに住む日系企業の駐在員がラスベガスにやって来た場合、その者は統計にカウントされるのかされないのか。ロサンゼルスで入国しレンタカーでラスベガスを訪れた者はどうなのか。ラスベガス国際空港で入国し、宿泊せずにそのままグランドキャニオンへ行ってしまった者はどうなのか。
 これまでにさまざまなメディアが 「日本人観光客数」 という類の統計を報じてきたが、その根拠や定義を掘り下げて分析した報道などいまだかつてお目にかかったことがない。もっとも、観光局さえ自ら発表する統計の根拠を理解していないのが実態で、各メディアのお粗末な報道ぶりなどやむを得ないといった感じがしないでもない。

 では各種統計は誰がどうやって算出したのか。残念ながら追跡調査をすればするほど情報源が怪しくなり、根拠のないデマのような数字が起源と思われてくる。データの発信源がシンクタンクなどであってもあてにならない。「総合研究所」 などと名乗っていても所詮は営利追求の企業であり、役所などから依頼された調査をきちんとやっているとは限らず、いわゆる手抜き調査も少なくない。

 「日本のパスポートを持ちラスベガス国際空港で入国した者を集計した」 という統計、「ラスベガスの宿泊施設で、住居地を “JAPAN” と記入しチェックインした者を主要ホテルなどから集計した」 という統計...。真偽はともかく、それら統計は調査方法が公表されるだけマシだが、少なくとも前者の手法による調査では実体を的確に捉えることはできないだろう。なぜならノンストップ便が少ない現状では、多くの者がロサンゼルスやサンフランシスコを経由してラスベガスを訪れているからだ。
 一方、後者の場合、前述の 「駐在員」 や 「グランドキャニオン」 のようなケースはカウントできないものの、かなり実体に近い数字を把握できるだろう。それでも団体客のチェックインなどにおいては個々の宿泊者の国籍をホテル側が必ずしも正確に把握しているとは限らず、かなりの誤差が生じる可能性があることを知っておく必要がある。
 また、ラスベガス国際空港などの交通量をランダムに調査し、その調査結果となった日本人比率と年間総旅客数を掛け合わせて算出した、などという統計もあるようだが、これの信憑性も心もとない。日本からのフライトの到着時刻に著しい偏りがあるためサンプリングの時間帯を慎重に選ばないと実態と大きくかけ離れた結果となってしまうからだ。
 いずれにせよ、統計の定義や根拠があいまいなままで統計結果だけがひとり歩きしてしまっている現状は、その情報の発信側も受け手側もそれが無意味であることに気づく必要があるだろう。

 前後の年で基準が違う統計を比較していても何の意味もない。今こそ前年度との推移を比較できるような連続性のある有意義な統計が求められている。
 さらに欲をいえば、単なる 「訪問者数」 ではなく、「訪問者のクオリティー」 もわかるような統計が欲しい。地元経済にとって、ラスベガスに1泊しかしない観光客と1週間滞在する観光客ではその価値において大きな違いがあるからだ。
 したがって理想としては、日本からの 「訪問者数」 と 「延べ宿泊日数」 を把握できるようにすることが望ましい。もちろん 「日本人」 の定義や、宿泊しない訪問者をどうするかといった問題は依然として残るが、その手法でだいたい求めたいデータは得られるだろう。
 そのためには各ホテルや大手旅行代理店などからの情報公開といった個々の企業の利害を超えた相互協力が不可欠だ。それにはコミュニティー内に強力なリーダーシップが求められるが、残念ながらラスベガスにはロサンゼルス、サンフランシスコ、ニューヨークなどにあるような求心力があり結束力が強い日系ビジネス団体が存在せず、「相互協力」 という活動を行いにくい環境にある。
 現状把握といった作業に始まる観光客誘致という壮大な計画は、一つの企業の努力だけで成し遂げられるものではなく、今後コミュニティー全体で知恵を出し合って解決していかなければならない問題だろう。

[ 原因の究明 ]

 航空会社、旅行代理店、みやげ物店などの話を総合すると、2000年の各月の日本人観光客数は前年同月比で10〜20% 落ち込んでいるという。
 この落ち込みの原因をシドニーオリンピックに求める関係者も多いが、たった2週間程度の単発的なイベントにそれほどの観光客が奪われたのだろうかという疑問は常に尽きない。奪われた観光客の数をわずか2週間の間に運ぶだけの航空キャパシティーが日本とシドニーの間にあったのかを分析すると、このオリンピック説はかなり説得力を失う。
 もちろん 「テレビ観戦をするために海外旅行を控えた者が多い」 という分析はある程度正しいかもしれない。しかしもしそうだとするならば他の観光都市もラスベガスと同様に落ち込んでいなければならないが、必ずしもそうではないという。

 2000年問題を指摘する声も根強い。つまり 2000年問題による航空機などのトラブルを心配した者が海外旅行を自粛したという考えだ。これはどうやら事実のようで、 2000年1月の観光客の落ち込みは世界的規模で発生したと報告されている。ただ、この説ではノースウェストが10月という時期を選んで減便に踏み切ったことを説明できない。

 現在もっとも有力な説は不景気説とヨーロッパ通貨のユーロ安説だ。日本の景気は依然として低迷しており、その出口の見えない不景気は無視できない要因だろう。特にギャンブル都市ラスベガスは他の観光都市と異なり、「現金を投下する行為そのものが観光目的となっている街」であり、景気に大きく左右されやすいことは否めない。
 「不景気な時こそ一攫千金をねらった観光客が増える」 という考えもあるようだが、それは現実を無視した楽観論といえるだろう。ただ、最近の落ち込みの原因を不景気説に求めるならば、マカオなどのギャンブル都市における状況も調べてみる必要があるかもしれない。

 ユーロ安、これが本命視されている。つまりユーロ安に起因するヨーロッパ旅行の相対的な割安感だ。ユーロは昨年1月の誕生以来、円に対して約2割以上も下落している。さらに先週デンマークにおける国民投票でユーロへの参加が否決され、ドイツ・フランスが目指すユーロ圏拡大構想に大きな暗雲が立ち込め、相場のさらなる下落が心配されている。ヨーロッパに人気を奪われているという現象はアジア地域への観光客の落ち込みなどを見ても説得力がありそうだ。

 歴史的にヨーロッパ旅行には高級感があったため、ラスベガス旅行とヨーロッパ旅行が同じような料金であれば多くの者はヨーロッパへなびいてしまう。それ自体はやむを得ないことかもしれない。ただ 「ヨーロッパ旅行 = 高級」 という図式に誤りがあることをラスベガス陣営は知っておくべきだし、その誤った認識を正す方向で観光客誘致の戦略を立てる必要があるだろう。
 長い間、日本とヨーロッパ間は航空会社の競争が日米間に比べ穏やかだったため航空運賃が総じて高く、その結果、ヨーロッパ旅行は高級というイメージが定着していた。しかし航空業界の大競争時代の訪れとともに今はヨーロッパの旅行環境も激変した。
 また、冷戦時代は旧ソビエト上空を飛行するノンストップ便がほとんど存在しなかったため、余儀なくアンカレッジ経由をしいられ、当時のヨーロッパ旅行は距離的にも時間的にも非常に遠かった。そんな時代に定着した 「遠いヨーロッパ = 高級」 という概念は理解できるが、ノンストップ便が当たり前となってしまった今は事情が一転しており、多くの者が勘違いしている意外な事実の存在にも気づかなければならない。
 それはヨーロッパ、特に北欧などはラスベガスよりもかなり日本に近いという事実だ。スペインなどの南欧を除けばヨーロッパの主要都市はアメリカの各都市より総じて近いかもしくは同等の距離にある(シアトルだけは日本に非常に近いが)。
 多くの者がヨーロッパは遠いと思いこんでしまっている最大の原因のひとつに地図がある。世界地図などで広く採用されているメルカトル図法で書かれた地図を見ていると、経度の差ばかりが強調され距離感を失い、緯度の高さが日本への近さに直結していることが読み取れない。地球儀を見ればアメリカが思った以上に遠く(特に緯度の低い南部の都市)、それと同時に北欧がいかに近いか一目瞭然だ。

 話が横道にそれてしまったが、ヨーロッパは高くもなければ遠くもない。もはや「高級な渡航先」ではないのである。しかし多くの日本人はいまだにアメリカよりもヨーロッパ旅行を高級と思っており、その結果、昨今のユーロ安から来るヨーロッパ旅行の相対的な割安感が在ラスベガスの日系観光業界にとって脅威となっている。
 「同じ10万円ならラスベガスよりイタリアへ行きたい」 と考える日本人をいかにしてラスベガスへ取り込むかが今後ラスベガス陣営の課題となるだろう。

[ 対策 ]

 劣勢に立たされたラスベガスにとってこの凋落傾向をくい止める策はあるのか。新規ホテルの開業による集客はアラジンが開業してしまった今となってはしばらく期待できそうもない。90年代に始まった子連れファミリー族の取り込み戦略も周知の通り街全体で失敗した。
 ラスベガス全体における観光客ではなく、日本からの観光客だけにターゲットを絞るのであれば、最も手っ取り早い集客手段はラスベガスを舞台にしたドラマのテレビ放映だろう。この発想を鼻で笑う者もいるが、地元側が負担する投下資金やその効果を細かく試算すると、テレビドラマに勝る宣伝方法は現時点では思いつかない。
 その効果のほどは約 10年ほど前に放映された 「ニューヨーク恋物語」 で実証済みだ。10年前に比べ海外旅行がさらに身近なものとなった今、「ラスベガス恋物語」 の経済効果は計り知れない。
 1年半後のソルトレークシティー冬季オリンピック時にラスベガスがアジアからのゲートウェーになるような期待もあるが、わずか2週間ばかりのイベントに照準を合わせ戦略を練ることは得策ではないだろう。
 来年も引き続き日本人観光客の数が減る傾向にあるようなら、在ラスベガスの日系ビジネスコミュニティーは呉越同舟も辞さない覚悟でありとあらゆるコネを使い一致団結してテレビドラマ誘致を真剣に検討すべきだろう。

[補足: 行政のサポート ]

 「ラスベガス恋物語」 のような類のマーケティングは観光局などに期待していてもダメだ。ネバダ州およびラスベガス市は日本にもその観光局の出先機関を持っているが、ほとんど何も期待できそうもない。理由はあえて書かないが、現時点で日本側の出先機関が有効的に機能しているとは思えないからだ。
 また当地ラスベガス側の観光局本体も、他の都市に比べ非常に優秀な観光局だと言われてはいるが、「子連れファミリーランド化」 の失敗に気づいた今日、「コンベンション」 と 「企業誘致」 を最大の目標に活動しており少々疑問に思えなくもない。
 企業誘致はよいとしても、ラスベガスの未来をコンベンション需要に託そうとしているのは問題だ。コンベンションは今後凋落の一途をたどることが確実視されており、モーターショーもエレクトロニクスショーもアパレルショーも規模の拡大はもはや望めない。企業が新製品などを披露する際、バイヤーや消費者たちにコンベンション会場にまで足を運んでもらい製品を見せるという時代はもう終わろうとしている。多くの企業が、新製品はインターネットで紹介した方が効率的だ、と考え始めているからだ。

 当面観光局に期待したいことはラスベガス国際空港における入国管理事務所などの問題だ。今回のノースウェストの減便理由の一つに厳しすぎる入国管理事務所の対応があったと一部で噂されている。
 ラスベガス国際空港は名称だけは 「国際」 になっているものの、国際線の乗り入れは非常に少なく、午前中の時間帯は成田発の日本航空とノースウェスト航空のフライト以外に国際線到着便はほとんど存在しない。その結果、入国管理官の数に比べて入国者が著しく少ないため、管理官が時間を持て余し 「入国者いじめ」 が行われているという。
 入国手続きにおける些細なミスを探し出し、別室に呼んで厳重審査を行うという手口らしい (ノースウェスト地上職員の話)。完全に入国拒否された場合、連れてきた航空会社の責任で本国へ送り返さなければならずノースウェスト側もこれにはうんざりしているという。この問題と今回の減便理由を結びつけるのは少々短絡的すぎるかもしれないが、とにかく入国審査が厳しいことだけはたしかなようだ。

 このような事態はラスベガスの観光業界にとって何のプラスにもならないため政治的手段ですぐに改善されそうなものだが、それが簡単にはいかないらしい。入国管理事務所の職員はすべて国家公務員で、ラスベガスとは何ら利害関係にないからだ。つまり彼ら職員はラスベガス市やネバダ州の発展や利益などまったく気にもとめておらず、市や州の抗議に対して聞く耳を持っていないというわけだ。
 奇しくもこれと同じ問題がオレゴン州ポートランド空港でも起こっており、つい先日デルタ航空は日本からのポートランド空港への乗り入れ便を来年3月をもってすべて打ち切ると発表した。ここ数年、ポートランドに住む日系企業の駐在員などが入局拒否を恐れてシアトルやサンフランシスコなど別の空港を利用するようになり、デルタ航空の搭乗率が激減し採算が合わなくなってしまったからだという。今でもポートランド空港では、正当な入国ビザを持っている駐在員までもが入国書類の不備などを指摘され入国拒否されることがしばしば起こっているらしい。
 デルタ航空の決定を受け地元経済への打撃を懸念するポートランド市やオレゴン州が国に対して強く抗議した結果、ポートランド入国管理事務所を管轄する移民局長が今月辞任に追い込まれたというニュースは知る人ぞ知る有名な話だ。これまでにもポートランド市やオレゴン州は何度か国に対して入国審査方法の改善を求めてきたらしいが、デルタ航空が撤退するという事態に発展するまで国側はまったく聞く耳を持たなかったという。

 そのようなポートランド空港の例もあるので、ラスベガス市やネバダ州はあきらめずに毅然たる態度で国家機関に注文を付けてもらいたい。ラスベガス国際空港の入国審査の厳しさがどの程度のものかまだ詳しく把握していないが、仮に多少なりとも他空港より厳しいのであれば、すぐにでも改善されるべきだろう。この問題が理由でノースウェストに続き日本航空も減便となるような事態に陥れば、それこそポートランドの比ではない経済損失を被ることになる。
 この問題は対象国が事実上日本となっているため(フランクフルト、ロンドンなどごく一部の都市から国際線は到着しているが、成田線ほど入国者は多くない)、改善が見られなければ日系ビジネスコミュニティーが団結してでも行動を起こす必要があるだろう。


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