週刊ラスベガスニュース バックナンバー   2000年7月12日号
ベネシアンの Nebulae、酷評やむ無し
 今や自他共に認めるラスベガスを代表する高級ホテルとなったベネシアンは、なぜかこれまで本格的な定期公演ショーを持っていなかった。
 そんなベネシアンホテルで 6月24日、同ホテルが 1年間温めてきたという大型ナイトショー Nebulae (“ネビュライ” と発音) が満を持して始まった。

 公開前の期待や注目度は半端ではなかった。二流ホテルがやるショーではないという期待だけでなく、会場となる劇場が話題のスタジオ型多目的ホール “C2K”であるばかりか、料金があのオウやシークフリッド&ロイに迫るブース席 $90、一般席 $71.50 (ごく一部の条件の悪い席のみ $49.50) という高めの設定で、宣伝もラスベガス中のタクシーを広告塔に使うなど(写真下)、やることすべてが派手で発表前から期待とムードは最高潮に達していた。

 また、3ヶ月ほど前にわざわざラスベガス大全側にコンタクトしてきた Nebulae 側の広報担当者の説明も 「宇宙をコンセプトにしたインターナショナルプロダクション。英語を必要としないため全世界の人が楽しめるショー」 とのことで、日本人向けのショーとしても大いに期待が持たれていた。

 しかし残念ながら初公開と同時にそれら期待はすべて裏切られてしまった。ベールを脱いだ Nebulae はあまりの出来の悪さにアメリカ人記者たちからも閉口されたのか、早くもまったく話題に上らなくなってしまった。通常この種の大型ショーがデビューした直後は、地元の各種フリーマガジンなどにはヨイショ記事が踊るのが通例だが、いまだに Nebulae を大きく取り上げた特集記事を見たことがない。酷評記事は大口広告主であるベネシアンに配慮せざるを得ないようで、もともと登場する環境にない。

 ショーの内容は最初から最後まで (実測正味 74分) ほとんどすべてが歌とダンスだけで (ただし人数は多く、常に 20〜45人がステージにいる)、マジック、コメディー、曲芸などはまったく無い。
 もちろん歌とダンスだけでもそれが好きな者にとってはそれなりに楽しめるはずだが、この Nebulae では生バンドがいるわけでもなく、歌も録音に合わせて口をパクパク動かしているといった有り様で、歌やダンスが好きな者にとっても満足できるレベルのものではないだろう。

 さらに酷評を避けられないのが舞台演出だ。いくら時間が経過しても舞台セットは変わる気配を見せない。中盤を過ぎた頃には曲が終わるごとに 「そろそろ背景ぐらいは変わるだろう」 と期待しながら観ていた者が多かったはずだ。しかし結局あれよあれよという間に時間が経過しとうとう舞台セットは一度も変わることなく幕となってしまった。

 細かい取材レポートを改めて分析してみると、正味時間 74分間で歌とダンスが途切れて別の出し物が登場したのはわずか 3回だけであることがわかる。それもそれぞれが約 3分間という極めて短いもので、1回目は開演 40分目にステージで歌っていた一人の女性が、天井から降りてきたネットのようなものにくるまって観客の頭上を空中ブランコのように舞うという演技(本物の空中ブランコのような危険なワザを披露するわけではない)。
 2回目が開演 52分目に始まった綱渡り。綱渡りといってもステージからたった 2メートルほどの高さに張られたロープの上を歩くだけだ。一般的に綱渡りは見かけ以上にむずかしいと言われるが、演出的には完全にシラけていた。
 最後は1回目の女性と同様に、天井から降りてきた2本の布にぶら下がったり体にからめたりしながら体操の吊り輪のような演技を披露する若い男性のパフォーマンス。

 結果として正味 74分の内、約 65分は歌とダンスだけで、残りの演出もマジックなどはまったく無かったことになる。したがって広告(冒頭の写真) に書かれている 「Magic」 という言葉を 「手品」 と解釈するならば、広告に偽りありがあると言わざるを得ない。百歩譲って 「マジックのような信じられないショー」 というように解釈しても、そのような光景は皆無に近く、大いに疑問の残る後味の悪い広告コピーといえるだろう。
 また、雑誌広告などにたくさん登場する 「宇宙的」 の意味は、ステージの背景に宇宙船のコックピットのようなデザインが描かれているというだけのことであって他に特に何ら宇宙らしき演出は何もない。
 「インターナショナル」 という言葉は広告のみならず開演直前にも場内アナウンスで説明があったが、どうもそれは国際色豊かな各国の音楽を歌ったり踊ったりする、という意味のようだ。それがゆえに、いつ日本をテーマにした曲がかかりどんな衣装で登場するのだろう、とかすかな期待を持たされたが、とうとう最後までアジア風の演出は一度もないまま幕となった。
 なお、「英語が不要」 という部分だけは、歌とダンス以外にほとんど何もないためその言葉に偽りはない。

 読者の中にはこれら酷評に対して、「日本人の目から見た偏見や主観が大いに入っているのでは」 と思う向きもあることだろう。しかし観客の反応を観察していればそれが主観でないことは明らかだ。だれかが仕方なく拍手し、それにつられて形式的にパラパラと拍手が出ることはあっても、観客全員のタイミングが一致して大きな拍手が沸き上がるような場面は一度もなかったのである。ようするに観客の感動を呼ぶような場面がまったくないということだ。

 酷評ばかりでは書く方も読む方も楽しくないので、少しでも良いことも書きたいところだが、残念なことにそれがなかなか見当たらない。しいてあげるならば、ダンサーの女性が他のホテルのショーに比べ総じて若く粒ぞろいだったということぐらいだろうか。それでも水着のような肌を多く露出する衣装で登場するわけではないので、お色気モノを期待する男性諸氏にとってはこの部分においてもフラストレーションを感じることだろう。

 会場が C2K という天井が高く照明や音響設備などがむき出しになった独創的な場所なだけに、演出にも非凡なものを期待してしまいがちだが、そういった周囲の諸条件を差し引いて考えてもこの Nebulae を高く評価することはできないだろう。
 このショーを他の類似のショーと比較し適正価格を冷静なおかつ公平に査定するならば $15〜$20 が妥当な水準ではないだろうか。それでもこれとほぼ似たような内容のパフォーマンスをリオスイートホテルのマスカレードショー (空中ショーではなくステージ上でのショー) において無料で観ることができることを考えると $15 でも高いのかもしれない。
 登場するダンサーの数を減らすなどして料金を大幅に値下げでもしない限り、この競争の厳しいラスベガスにおいて、世紀の駄作とも言えなくもないこの Nebulae が、残り少ない今世紀を生き残ることは極めてむずかしいのではないだろうか。

 ちなみに開演スケジュールは土曜日から火曜日が 8:30pm、水曜日が 6:30pm、木曜日と金曜日が休演。料金は前述の通りステージ前の一般席が $71.50、会場の後方の壁際に並べられているブース席が $90、ステージの真横にほんのわずかだけ存在しているかなり条件の悪い席が $49.50。チケットはベネシアンホテル内 C2Kシアター前で。


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