週刊ラスベガスニュース バックナンバー   2000年5月17日号
デザートイン変貌のシナリオ
 4月27日、ラスベガスのヒーロー Steve Wynn 氏がラスベガス屈指の高級ホテル・デザートインを買収したニュースは瞬く間に世界中のビジネス界を駆けめぐった。

 Steve Wynn 氏といえば、火山のミラージ、海賊船ショーのトレジャーアイランド、噴水ショーのベラージオなど、次から次へとテーマホテルを建設し今日のラスベガスブームを築いた立て役者であり、ホテル業界などでは世界的に知られる逸材だ。もちろん観光収入増などでさまざまな恩恵を受けているラスベガス市に住む地元民で彼の名を知らない者はいない。

 そんな Wynn 氏だが、今年の2月、業績不振による株価低迷などから彼が最高経営責任者を務めるミラージ、トレジャーアイランド、ベラージオなどが MGMグランド社に買収されてしまい、それを機に彼は “失業” 状態に陥っていた。
 そんな矢先のデザートイン買収のニュースなだけに、ヒーローの去就を心配していた地元民はもちろんのこと、業界関係者も総じて今回のニュースを好意的に受け止めている。特にデザートインが位置する北ストリップ地区は相対的に注目度が低下してきていただけに、同地区で営業しているスターダスト、リビエラ、サーカスサーカスなどはライバルの出現というマイナス効果は気にもとめず、Wynn 氏による北ストリップ地区の再開発と活性化を大いに期待し彼の再登場を手放しで喜んでいる。

 さて当の本人だが、買収のニュースが大きく取り上げられた4月末の時点では 「最低1年間は現在のデザートインのままで営業を続け、その後はデザートインをディズニーワールドのような大型レジャーランドにしたい」 と抱負を語っていた。
 しかしここへ来ていくつかの問題が浮上してきており、今後の計画に対してはさまざまな噂や憶測が飛び交い始めた。
 今週はベラージオの広報部で Wynn 氏の側近として働いてきた某氏への密着取材情報を元に、今後のデザートインの変貌シナリオを描いてみたい。

 デザートインは現在大きく分けて3つのポーションから構成されている。カジノやプール施設も含めたホテル本体、ゴルフコース、32エーカー(約13万平方メートル)の空き地だ。これらをすべて合わせると現在のラスベガスのどのホテルよりも広い土地を有していることになり、何か大きなことをやりたい Wynn氏にとっては絶好の買収物件だったといえる。

 今後のデザートインの変貌を占う上で重要なカギを握っているのはなんといってもデザートインゴルフクラブだろう。半世紀に渡り数々の名勝負がくり広げられてきたPGA(全米プロゴルフ協会)御用達のこの名門コースを取り壊すことなどあり得ないとする見方が支配的だが、「Wynn 氏は現に名門デューンズカントリークラブをつぶしてその空き地にベラージオを建てた。常識では考えられないことをやるのが彼の手法」 とする意見も少なくなく、デザートインゴルフクラブの消滅もまったくあり得ないことではない。
 彼自身 「どんな名門コースでも同種のものは世界中にいくらでもあるが、私が造るホテルは世界中のどこにもないものになるだろう」 と語っており、名門コースの閉鎖も視野に入れていることは間違いなさそうだ。

 そんな彼の “習性” を知ってか、買収話が発表された直後から多くの業界アナリストらがデザートインゴルフクラブの閉鎖を前提としたシナリオを描いてきているが、ここへ来てベラージオ建設時のデューンズカントリークラブの閉鎖時とは違った問題がいくつか浮上してきた。
 デザートインゴルフクラブのフェアウェー沿いには高級住宅やコンドミニアムが多数存在しており、立ち退き問題が絡んでくるというのだ。そうなると短期間でのコース閉鎖はむずかしくなる。また、ラスベガス市などが計画しているモノレールの建設構想による予定路線がデザートインゴルフクラブ周辺の土地を通過することになっており、同コースを全面的に閉鎖し再開発するとなると、市などとの調整が必要になってくる可能性が高い。
 さらに最大の問題が、ここ数日の金利の上昇だ。ゴルフコースを閉鎖してディズニーワールド級の壮大なテーマパークを建設するには少なくとも日本円換算で 2000億円規模の資金が必要とされ、銀行からの借り入れは言うに及ばず、社債発行など市場からの直接金融においても金利上昇の影響は避けて通れない。1%の金利差が年間 20億円にもなってしまうこの問題は Wynn 氏の壮大な計画の前に大きく立ちはだかってきており、場合によっては計画の全面的な見直しも必要になるというのがアナリストらの見方だ。株式発行による資金調達という方法もあるが、これとて他の金融商品との利回り競争にさらされており影響は決して少なくないばかりか、MGMグランドによるベラージオやミラージの買収という苦い経験をした Wynn 氏にとって株式公開は必ずしも望むところではない。以上のような状況をふまえると現時点では次の4つのシナリオが考えられる。

 シナリオ 1
現在のデザートインとゴルフコースをそのまま残し、新たなテーマホテルを現在の空き地に建設する。

 シナリオ 2
ゴルフコースは残すものの現在のデザートインを爆破解体し、空き地と合わせた広大な敷地にラスベガス最大級の大型テーマホテルを建設する。

 シナリオ 3
ゴルフコースも現在のデザートインもすべて解体し、ディズニーワールド級の壮大な総合レジャーランドを建設する。

 シナリオ 4
現状のままで特になんの変化も起こらない。もしくは Wynn 氏がデザートインを手放す。

 シナリオ 1 の 考察 & 予測
 現在のデザートイン自体が 2年ほど前に改装されたばかりで、すでにラスベガスで 1、2を争う豪華ホテルになっている現状を考えると 「解体はあり得ない」 とする見方もそれなりに説得力がある。一方、中途半端なコンセプトのホテルでは競争に勝てないことを知っている Wynn 氏が、空き地に新たなホテルを建設するだけのプロジェクトに魅力を感じるはずもなく、少なくとも自身が2年前に完成させたベラージオをしのぐホテルを建設したいと考えている Wynn 氏にとって 32エーカーの土地は十分とは言えない。ラスベガス大全の勝手な予測では、このシナリオ 1 になる可能性は約20%と見ている。

 シナリオ 2 の 考察 & 予測
 ラスベガスにはすばらしいゴルフコースがいくつもあるが、世界に冠たる繁華街・ストリップに面しているという意味でこのデザートインゴルフクラブの価値はあまりにも大きい。またその伝統を考えてもこれを解体するには異論も多く、いくら Wynn 氏といえどもこのコースの解体にはかなりの勇気がいるはずだ。また、コース内に住む住民の立ち退き問題もかなりの難題として立ちはだかっている。ゴルフコースを残して現在のデザートインを解体すれば、ゴルフコース付きの大規模な豪華ホテルの実現が可能となる。このシナリオ 2 になる可能性は約35%

 シナリオ 3の 考察 & 予測
 ゴルフコースを完全に閉鎖すれば広大な土地を確保できるばかりか、その敷地の東端はラスベガスコンベンションセンター、南端はサンズコンベンションセンターに面することになり、レジャー客のみならずビジネス客の取り込みでも他のホテルを圧倒する最強のホテルとなる。またそれが実現した際には、現在の空き地の前の交差点は新々フォーコーナーと呼ばれるにふさわしい賑わいを見せるようになり世界中からスポットライトを浴びる。この筋書きを Wynn 氏が描いていないわけが無く、資金の調達さえ解決できればこのプロジェクトの実現も十分にあり得る。このシナリオ 3 になる可能性は約40%

 シナリオ 4の 考察 & 予測
 デザートインを Wynn 氏が所有している限り、何も変化がないということはまず考えられない。ただし Wynn 氏が 2年以内にデザートインを手放す可能性、もしくはデザートインを買収できない可能性(まだ当局から最終的な買収許可が降りたわけではない) はわずかながら残っている。このシナリオ 4 になる可能性は約5%

 これらの予測は特に根拠のない勝手な分析によるものだが、いずれにせよ何かが起こることは間違いないだろう。そしてその変化の結果は中途半端なものではなく、ラスベガス大全としてはシナリオ3 のような姿になることを期待している。伝統あるデザートインゴルフクラブの消滅は非常に残念だが、ラスベガスの活性化にはそれが最も有益と考えるからだ。ロマンあふれる Wynn 氏のたぐいまれな才能に大いに期待したい。


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