週刊ラスベガスニュース バックナンバー   2000年4月12日号
ラスベガスが第二のシリコンバレーに?!
 ギャンブルの街ラスベガスがシリコンバレーになる?! といってもカジノホテルがハイテク工場に生まれ変わるわけではない。ラスベガス郊外に続々とハイテク企業がやって来るかもしれない、という話だ。

 カジノ産業一辺倒という偏った産業構造に常々問題意識を持っていたラスベガス市およびネバダ州当局は、長年に渡り異業種誘致に力を注いできたが、大消費地や港湾から遠いラスベガスに籍を置こうとする企業はそう多くなく、“脱カジノ産業” は思うように進んでいなかった。
 そこで起死回生の切り札として考え出されたアイデアが、今回の“ラスベガスのシリコンバレー化”、つまりサンフランシスコ南部一帯に広がる本家本元のシリコンバレーをラスベガスに再現しようという計画だ。ちなみに砂漠の中にあるということから “シリコンオアシス計画”と名付けられている。
 なお、その場所がラスベガスのどの地域になるかはまだ決まっていないが、サンフランシスコのように面積的に大きな町ではないため 「ラスベガス周辺全域」ということであえて特定しない可能性もある。
 旗振り役は Nevada Development Authority(ネバダ州開発局)や Las Vegas Chamber of Commerce(ラスベガス商工会議所: 右上の写真) などが中心だが、計画の実現には電力会社や不動産デベロッパーなども含めた官民一体となった協力が必要で、今後多くの企業を巻き込む壮大なプロジェクトに発展しそうだ。

 ラスベガスは周囲が砂漠ということで空路以外の交通の便がめっぽう悪く、また周辺人口が少ないため企業にとって優秀な人材を確保しにくいという問題を抱えている。そのへんの事情もあり、今回の計画の非現実性を指摘する専門家も少なくないが、地元メディアを始めとする多くの関係者はシリコンオアシス計画の 「タイミングの良さ」 を高く評価している。

 本家本元のシリコンバレー地域ではここ数年ありとあらゆる物価が高騰しており、特にアパートや事務所の家賃および住宅価格などの不動産価格は日本のバブル時代を思わせるほどの急騰ぶりで、標準的アパートの家賃はロサンゼルスの2倍、ラスベガスの3倍以上といわれている。
 こんなことになってしまった理由は言うまでもなくハイテク企業への就職を求め世界中から優秀な人材が一ヶ所に集中してしまったためだが、人が集まり需要が増えれば物価も上がるというのは当然の経済原理としても、これまでの常識では家賃などが世間相場の数倍にまで跳ね上がれば、支払い能力を超えた者はその町を去ることになり、結果的に物価は妥当な水準に落ちつくのが普通だった。
 ところがここ1〜2年のシリコンバレーではそんな常識がまったく成り立たない異常な事態が続いている。ハイテク企業が優秀な人材を奪い合い、異常なまでに高い賃金を支払うため、世間相場の3倍の家賃でも多くの労働者はシリコンバレーに住むことができてしまうのである。また、ストックオプションなどで “にわか億万長者” になった若いエンジニアなどが高額住宅をいとも簡単に買ってしまっていることも不動産価格や家賃を押し上げている要因といわれている。

 しかしここへ来てシリコンバレーの様相が少しずつ変わり始めている。株価や業績の頭打ちなどで企業側も従業員側も高い家賃に耐えられなくなってきているようだ。つまりラスベガスのような物価の安い場所を求める動きが出始めているという。
 また、シリコンバレーは元来その名が示す通り半導体にかかわる製造業を中心とするエリアだったが、最近はインターネット関連企業など、原料や部品の調達を必要としない非製造業が急増しており、現在の在シリコンバレー企業の多くはサンフランシスコ湾に面した物流の恩恵を受ける地域に居座る必要がなくなりつつある。この変化こそがまさにシリコンオアシス計画にとって非常にタイミングが良いというわけだ。

 そのような理由もあり、現在 Nevada Development Authority や Las Vegas Chamber of Commerce は、オフィス賃貸料の安さはもちろんのこと、税制上の有利性、電力料金の安さ、町が比較的小さいことによる通勤時間の短さ、空港の近さ、など、ありとあらゆるラスベガスの利点を売り込みながら、シリコンバレーを始めとする全米各地の企業にラブコールを送っているが、その背景にはそうしなければならない事情があることもまた事実だ。

 この夏に予定されているアラジンホテルの完成を最後に、ここ数年続いてきた新規ホテルの建設ブームが終了することになるが、そうなるとこれまで続いてきた観光客の増加率も頭打ちになることが予想される。
 さらにラスベガスにとって好ましくないニュースがある。昨今の法改正により全米各地でギャンブルが認められる方向に動いており、ラスベガスの特殊性が薄れつつあるということだ。これは結果として米国内の遠方地域からのカジノ客が減ることを意味している。
 そして最大の不安要因が産業見本市などのコンベンション環境の変化だ。ラスベガスはコンベンションの誘致が順調に進んでいるかのようにも見えるが、それはあくまでも他都市と比べた相対論であって、コンベンション自体が全世界的に縮小していることは疑う余地のない事実だ。その理由はインターネットにある。
 インターネットの普及にともないウェブサイトを利用して自社製品を紹介できるようになった最近の企業は、「わざわざ高い出展費用を負担してまで自社製品をコンベンションの場で披露する時代ではない」 と考え始めている。すでにハイテク関連業界におけるコンベンションではこの傾向がハッキリ現れてきており、大型のハイテクコンベンションが多いラスベガスはそれだけダメージも大きい。これは、「コンベンションで集客しカジノ産業を潤わせる」という図式で成り立っているラスベガスの経済循環を根底から揺るがす要因となりかねない。

 現在ラスベガスのカジノ産業を支えているのは日本のパチンコ感覚で毎日のように遊んでいる地元民だ。その証拠にストリップの大型カジノホテルの経営不振を尻目に地元民相手のカジノはおおむね業績を伸ばしている。また、話題の大型ジャックポットの当選者もいつも決まって地元民だ。
 当局も地元民を増やすことがこの町の産業の活性化にとって最も手っ取り早い特効薬だと認識している。一人の人間がラスベガスに流入すれば、必ず家に住み自動車に乗り食材を買う。つまり人口の増加はカジノ産業のみならず住宅産業も自動車産業も食品産業も活性化させる。
 そんな期待を込めてのシリコンオアシス計画だが、はたしてシリコンバレーからネット関連企業をどこまで呼び寄せることができるだろうか。関係者はこれから3年間が勝負だという。しかしその結果はラスベガス側の努力だけで決まるものではなく、シリコンバレー側の環境の変化やネット業界全体の流れとも微妙にかかわってくることなので予測は非常にむずかしい。絵に書いた餅に終わるか、それとも世界に冠たるシリコンオアシスが誕生するのか興味は尽きない。

 参考までに Las Vegas Chamber of Commerce によるとすでに以下のようなネット関連企業がラスベガスに進出しているという。(これはシリコンオアシス計画が着々と進んでいる証拠と見るべきか、それともどこの都市にでも存在する程度のネット関連企業と考えるべきなのか現時点では判断が非常にむずかしい)

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