週刊ラスベガスニュース バックナンバー   2000年3月8日号
MGM がベラージオ、ミラージなどを買収
 3月6日、MGMグランドホテルを所有する MGM Grand 社と、ベラージオ、ミラージ、トレジャーアイランドなどを所有する Mirage Resorts 社(どちらもニューヨーク証券取引所上場。本社ラスベガス)は、MGM社が Mirage 社の全株式を一株 $21、総額約 43億ドルで買い取ることに同意した。
 またこの同意の中には、現在 Mirage 社が抱える有利子負債 21億ドルを MGM社が肩代わりすることも織り込まれており、実質的には 65億ドル規模の大型企業買収ということになる。
 今回の買収の最終的な結論は両社の主要株主の承認、および独占禁止法を管理する FTC(Federal Trade Commission。日本の公正取引委員会に相当)の審査を待たなければならないが、特に異議が出される可能性は低いと見られており、MGM社による Mirage 社の買収が事実上ほぼ確定した。

 MGM社は現在そのフラッグシップホテルともいえる MGM グランドホテル以外にニューヨークニューヨークホテルさらにラスベガスの南方約 60km の場所にある Primm 地区にバッファロービルズ、ウイスキーピーツ、プリムバレーリゾートなどの中規模カジノホテルを所有しているが、ベラージオ、ミラージ、トレジャーアイランド、ゴールデンナゲット、ホリデーインボードウォークなどの大型カジノホテルを多数所有する Mirage 社に規模の上では遠く及ばず、そういう意味では今回の買収劇は小が大を飲み込むカタチとなった。
 そのようなことが実現した背景には Mirage 社側の業績不振による株価の低迷と、拡大路線をめざしていた MGM社側の思惑、さらには両社の株主構成および経営システムの違いがあったといわれている。

 ここ数ヶ月 Mirage 社の株価は低落傾向にあり、約1年前の高値域(25ドル)に比べ半値もしくはそれ以下の水準に低迷していた。ニューヨークポスト紙、ラスベガスリビュージャーナル紙などはそんな Mirage 社の不振ぶりを象徴する“事件” として、次のような笑い話(実話) を紹介している。
 「昨年11月、機関投資家たちなどを集めてニューヨークで行われたコンファレンスの席上、創業者でもあり Mirage 社の最高経営責任者でもある Steve Wynn 氏が、業績不振を心配する株主の前でミラージホテルの新作ナイトショーのテーマソングを鼻歌混じりにのんきに歌うなどした結果、コンファレンス終了直後の会場の出口はパニックとなった。Wynn 氏の危機感のなさに失望した投資家たちが、まわりの誰よりも早く売り注文を出すために携帯電話を片手に我を急いで出口に殺到したからだ」
 もちろんこの話にはアメリカ流の誇張やユーモアが多分に含まれているのだろうが、このコンファレンスがきっかけとなったかどうかは別にして Mirage社の株価はその後も下がり続け 2月中旬には同社の一株純資産とほぼ同水準の 11ドルまで売り込まれた。
 一方、好業績を背景にその信用力から有利な社債発行などが可能になったMGM社は、新規ホテルの建設や既存ホテルの買収資金の調達にはまったく不自由しない環境に置かれ、拡大路線を虎視眈々とねらっていた同社にとって市場価値が急落していた Mirage 社は絶好の割安物件と映ったのである。

 創業者オーナー Wynn 氏にとって我が子のようにかわいいベラージオやミラージは絶対に売りたくないところで、またそれと同時に MGMの一般株主にとって巨額を投じて業績不振の Mirage 社を市場価格を大きく上回る1株 21ドルで買うことなどまったく歓迎できない話であった。しかし今回の買収劇はそんな常識とは裏腹にいとも簡単にまとまってしまった。どのような事情が背景にあったのだろうか。
 実は Wynn 氏は創業者といえども発行株式の 12% しか所有しておらず(創業後、ホテルの建設資金を調達するために何度も第三者割当増資などを行ってきたため)、ニューヨーク証券取引所が発表している資料によると Mirage 社の株式は約 70% が浮動株となっている。もちろんそれでも Wynn 氏が筆頭株主であることに違いはないが、12% の比率では一般株主の意見を無視した経営に走ることは法的に許されない。
 一方、MGM社は上場企業ではあるものの、その発行株式の大半を全米屈指の大富豪 Kirk Kerkorian 氏が所有しており、浮動株はわずか 23% となっている。そのような立場にある Kerkorian 氏は Wynn 氏と違い自らが経営に参加する必要がなく(実際に彼は役員ではない)、社長以下 MGM社の取締役はすべて Kerkorian 氏が株主総会で選出した人物ばかりで、経営陣をアゴで使えるポジションにいる。大株主として影で会社を操っているというわけだ。
 したがって今回の買収案に対して Wynn氏の場合、いくら自分が反対したくても一般株主の意向に逆らうことはできないばかりか、一般株主は Wynn氏の経営ミスのおかげで株価急落を招き大損をしたと思っているわけで、そこに降ってわいたような MGMからの今回の “高値買い取り”の話に反対する理由がなく、Wynn 氏は一般株主を敵に回すことになってしまった。つまり Mirage 社の一般株主にとって Wynn氏は業績不振を招いた張本人であり、逆に Kerkorian 氏は救世主なのである。
 一方、MGM社の一般株主は高値買い取りという無駄づかいに反対したくても、買収話が過半数の株式を所有する Kerkorian 氏から出たものである限り、株主総会で議論できないことは始めからわかっている。また一般株主のみならず、社長を始めとするMGMの経営陣たちも自分たちが大株主 Kerkorian 氏に選ばれている限り、「やれ」 と言われたことをやるしかないのが現状で反対すること自体に意味がない。

 そのような背景もあり予想外に早く決着を見た今回の買収劇だが、今誰もが気にしていることはカリスマ的経営者だった Wynn 氏自身の身の振り方と、カリスマ的経営者からカリスマ的株主 Kerkorian 氏の管理下に移されたベラージオやミラージの今後の変化だろう。
 テーマホテルを次々と建設しラスベガスに新風をもたらした Wynn氏は、地元民から神様的存在として尊敬されており、その知名度はラスベガスに住むテニスプレーヤー・アンドレアガシやマジシャンのランスバートンに勝るとも劣らず、100万人の市民がそんな Wynn氏の去就をかたずを呑んで見守っている。
 MGM社側は今後の新体制下において Wynn 氏を取締役として残すかどうか現時点ではコメントを避けているが、Wynn 氏を愛する市民の多くはそれを望んでいないようだ。また、常識的に考えても “創業者オーナー社長” の立場にいた者が “雇われ社長”を引き受ける可能性は少ないと見るのが妥当だろう。
 そして早くもさまざまな憶測や噂が広がっている。今回の買収劇の結果、Wynn 氏自身は名誉を傷つけられたカタチのようにも見受けられるが、Mirage 社の株式売却によって約5億ドルの現金を手にすることになり、つい数週間前までの株価低迷を考えると彼自身こそ今回の買収劇における最大の受益者と言えなくもない。
 そこで噂となっているのが、Wynn 氏によるラスベガス屈指の超高級ホテル・デザートインの買収で、業界アナリストらもその実現性をまんざら否定していないようだ。否定できない理由は、デザートインの現オーナーがたまたま売却先を探していることと、なにか新しいことをやりたい Wynn氏にとってデザートインはラスベガスストリップに残された最後の絶好のロケーションだからだ。デザートインのすぐ南側には広大な空き地がある。4年ほど前、プラネットハリウッドホテルの建設のためにアーノルドシュワルツネガーやシルベスタスタローンらが起工式を行った場所だ(建設計画はその後すぐに中止となった)。新テーマホテルの建設資金としては今回 Wynn氏が手にする5億ドルは少なすぎる感じがしないでもないが、彼の知名度と過去の実績を考えれば金融市場からの資金調達も十分可能だろう。

 ベラージオやミラージの今後はどうか。MGM側はすぐにリストラなどをする計画はないとコメントしているが、限りなく近い将来大量のリストラが起こるであろうことは多くの専門家が指摘するところだ。もともとベラージオなどは客室数当たりの従業員数が 2.0 を超えており(適正値や業界平均は 0.8〜1.3 と言われている)、リストラの余地が十分にあるばかりか、そもそもこの買収の目的が 「企業統合によるスケールメリットを生かした経費削減」(MGMのスポークスマン) にあることを考えると、リストラが行われないことはあり得ないだろう。
 つまり、経理、総務、広告、マーケティング、コンピューターなどの各部門は、会社の規模が倍になったからといって従業員もそれに比例して必要な部門ではなく、直接客と接する客室部門、施設の保全などを担当する管理部門、レストラン部門などを除けばどこも大幅なリストラの対象となるだろう。業界アナリストらも各種部門の共通化による経費削減メリットを年間1億ドル以上と試算しており、「海外のマーケティング拠点の統合などがまっ先に行われるだろう」(機関投資家)と予測している。
 当事者である Mirage 社の従業員らは早くも困惑気味で、「マジックショーに登場するトラまでもがライオンに置き換えられるのではないか」 と不安の色を隠せない様子だ。ちなみにライオンは MGM社のシンボルで、実際にそのカジノフロアで多数飼育されており、絶滅寸前のトラに比べ市場価格も桁違いに安いといわれている。そんなライオンをトラに代わって起用すれば、トラの売却益が出るだろうというのが冗談とも言えぬ噂の根拠だが、それだけは絶対になさそうだ。

 株主や従業員以外の者にとって今回の買収劇はどのような影響をもたらすのだろうか。一般的には何ら変化がないとされているが、完成させたばかりの立派なプール施設やテーマパークをいとも簡単に解体してきた Kerkorian 氏だけに、噴水ショー、火山、海賊船ショーに何が起こるかわからないというのがもっぱらの噂だ。大富豪の金銭感覚は一般庶民はおろか Wynn 氏の発想さえもはるかに超えているという。何が起こっても不思議ではなさそうだ。
 一般観光客にとって当面の問題として気になるのは 総額 3億ドルもの世界の名画を集めたベラージオのアートギャラリーと、1ラウンド $1000 とも言われている伝説的ゴルフコース “シャドークリーク” だろう。この二つはどちらも半ば Wynn氏が私物化してきたようなもので、彼の去就によってはこれら施設に何らかの変化が起こることは間違いなさそうだ。
 ちなみにアートギャラリー内の絵画購入に費やされた 3億ドルの内の約半分は Wynn 氏個人の資金で、残りの半分は会社の投資だという。この件に関しても Mirage の一般株主は、「利益を生み出さないものに我々の貴重な投下資金を使ってもらっては困る」 と絵画好きの Wynn氏の公私混同ぶりに不満をぶつけている。一般的にアメリカの投資家は、銀行の定期預金金利を上回るリターンがなければ不満を示し投資資金を引き上げるという。当然といえば当然のことだろう。ちなみに現在の定期預金金利は日本よりもはるかに高い5%前後だ。アートギャラリーの絵画投資はその5%はおろか何らリターンを生み出していないというから、投資家が怒るのも無理はない。

 さて今回の出来事の是非を一般市民や観光客はどのように見ているのだろうか。まず一般市民だが、これは 「大反対」 で意見が一致しているようだ。顔が見えない影の権力者 Kerkorian 氏を知る者は少ないが、市民や従業員と一緒になってこの街を造ってきたカリスマ的 Wynn 氏には愛着があるからだ。また、1万人以上いる Mirage社の従業員やその家族などがリストラの恐怖にさらされ、またそのリストラされる従業員の購買力の低下により間接的にビジネスチャンスを失う可能性がある者も多く、今回の買収を歓迎する者は少数派といってよいだろう。
 観光客も、地元テレビ局などが行っている街頭インタビューによると、業界の寡占化による宿泊料金の高値安定などを懸念する声が多い。競争が減ると業界全体が談合的体質になるということのようだ。

 さて専門家はどう見ているのか。機関投資家、観光業界、ホテル業界、カジノ業界、さらにはそれら分野のアナリストらのいわばプロと言われる集団は総じて今回の買収劇を好意的かつ前向きにとらえている。ラスベガス観光局もとりあえず歓迎するスタンスを表明している。その根拠は、スケールメリットを生かした経費削減効果で、宿泊料金の低下などトータル的なサービスの向上が期待できるというものだ。そして専門家たちは、法的に禁じられている寡占化によるカルテル的な高値安定の心配はまずあり得ないとしている。

 なお両社の統合が実際に行われるためには、このあと独占禁止法を管理する FTCによる承認を待たなければならない。しかし統合後の MGM社よりもさらに規模が大きい Park Place Entertainment 社によって昨年行われたシーザーズパレスの買収がつい先日承認されたばかりのため、FTCが今回の買収を認めない理由はないだろうというのが関係者の一致した見方だ。
 それでも他州での営業比率が高い Park Place 社のケースと違い、同じ巨大化でもラスベガスにおいて圧倒的な支配力を有することになる今回のMGM社のケースはすんなり認められない可能性もわずかながら残っているという。もし万一 FTCが物言いを付けてきた場合、MGM社はゴールデンナゲットの売却などでそれを乗り切るかまえのようだ。その前に自らゴールデンナゲットを売りに出してしまうのではないかとの噂も流れている。

 今回の統合で、競合他社もさらなる規模の拡大とそのスケールメリットを生かしたコスト削減が迫られることになりそうだ。そして早くも次なる統合の話が噂され始めている。Harrahs 社による Mandalay 社の買収だ。ハラス、リオスイート、ショーボートしか持たない Harrahs 社はラスベガスでこそその存在感が薄いが、全世界でカジノホテルを経営するカジノ業界の巨人であり Mandalay 社を買い取るパワーと理由はそれなりにあると専門家は見ている。Mandalay社が所有するマンダレイベイ、エクスカリバー、ラクソー、サーカスサーカスなどを手に入れることができれば、ラスベガスにおいても一気にシェア拡大が果たせ、MGM社や Park Place社と肩を並べることができるからだ。
 その他、現在建設中のアラジンホテルも開業後の運転資金の調達で悩んでおり、Park Place 社などが買収するのではないかとの憶測が関係者の間で飛び交っている。さらにリビエラ、トロピカーナなどの行方も非常に不透明だ。
 どの噂が真実となるかは別にして、ストリップのカジノ業界は、価格カルテルを禁じるFTCがそれ以上の統合を認めなくなるまで企業統合が続き、いずれ MGM社、Park Place社、Harrahs社 のほぼ3社寡占状態となるであろう。
 その時 Steve Wynn 氏はどこで何をやっているのか、非常に興味深いところだが、彼の未来はともかく、これまでに Wynn 氏がラスベガスの発展に貢献してきたことは疑いのない事実であり、この十年間の彼の功績には素直に拍手を送りたい。


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